第二種金融商品取引業の実務に潜む
“致命的な勘違い”と法的リスクの境界線
第二種金融商品取引業の実務に潜む
“致命的な勘違い”と法的リスクの境界線
知らなかった」では済まされない。
第二種金融商品取引業の実務に潜む“致命的な勘違い”と法的リスクの境界線
その「理解」が、事業の寿命を縮めていませんか?
ファンドビジネスは、投資家から資金を募り、大きなプロジェクトを動かすという魅力的なスキームです。
しかし、その土台となる金商法は、極めて緻密かつ厳格な論理構成の上に成り立っています。
例えば、「自己募集」と「募集の取扱い」の区別、あるいは「事業型」と「貸付型」の法的境界線。
これらを混同したまま事業を開始することは、いわば「設計図のない高層ビル」を建てるようなものです。
実務上の警鐘
当局(財務局)の検査や登録審査において、最も厳しく問われるのは「書類の体裁」ではありません。
その裏側にある、経営者の法的な理解度と、それを守るための管理体制の質です。
「知らなかった」という弁明は、投資家保護を大前提とするこの業界では一切通用しません。
むしろ、条文の引用ミスや定義の誤解一つが、「コンプライアンス意識の欠如」というレッテルを貼られ、
行政処分や無登録営業の指摘へと直結するのです。
1. 「自己募集」か「取扱い」か。根拠条文の混同が招く信頼の失墜
二種業の実務において、最も基本的でありながら、驚くほど多く見落とされているのが「自分たちは一体何の行為を行うのか」という定義の峻別です。
特に、契約書や業務方法書の中で「自己私募(法第2条第8項第9号)」といった記載を見かけることがありますが、これは法的に明確な誤りであり、プロの目から見れば「自社のビジネスモデルを法的に整理できていない」ことを露呈しているのと同義です。
「7号」と「9号」の埋められない溝
金商法では、誰が勧誘を行うかによって、根拠となる条文が厳格に分かれています。
第7号(自己募集・自己私募):
ファンドの営業者(発行者)自身が、投資家に対して勧誘を行うこと。
第9号(募集・私募の取扱い):
他者が発行するファンドの販売を、第三者として媒介・代理すること。
「自己(自ら)」と言いながら「9号(他人のために行うこと)」を引用するのは、論理的な矛盾です。このような初歩的なミスがなぜ致命的なのでしょうか。それは、「7号」と「9号」では、登録時に求められる体制も、その後の法的責任の重さも全く異なるからです。
内部管理体制への波及
例えば、9号行為(取扱い)を行う業者には、発行者(営業者)が詐欺的でないか、運用能力があるかを審査する「ゲートキーパー責任」が強く求められます。一方で、7号(自己募集)であれば、自らが事業を完遂する能力そのものが問われます。
この前提が狂っていると、せっかく構築した内部管理規定も「実態と乖離した無意味な書類」と化してしまいます。
当局が最初に見るポイント
証券取引等監視委員会や財務局の検査において、まずチェックされるのは「登録した業務範囲と実態の整合性」です。
「自社の行為が何号に該当するかさえ正しく定義できていない業者に、投資家の資産を守るコンプライアンス意識があるのか?」
そう判断された瞬間、その後の検査は極めて厳しいものになります。「条文の書き間違い」は、単なる誤植ではなく、業者の適格性を疑わせる「重大なサイン」となるのです。
2. 「事業型」と「貸付型」の境界線 — 貸金業登録を甘く見ていないか?
二種業者が扱うファンドにおいて、次に間違いが多く、かつ取り返しのつかない事態を招きやすいのが、
「集めた資金をどう運用するか」によるライセンスの不適合です。
特に、「他社に貸し付けて利息を取る」というスキームを、単なる「事業型ファンド」の一種だと思い込み、二種業の登録だけで済ませようとするケースが後を絶ちません。しかし、ここには「無登録貸金業」という刑事罰にも直結しかねない巨大な落とし穴が潜んでいます。
「利息」を取るなら、そこは貸金業の領域
広義では「事業型ファンド」として一括りにされることもありますが、法的な性質は真逆です。
本来の事業型ファンド:
集めた資金を自社の「事業(太陽光発電、不動産開発、コンテンツ制作等)」に投じ、そのビジネスが生んだ利益(売上)を分配する。
貸付型ファンド(ソーシャルレンディング):
集めた資金を、特定の第三者(他の事業者)に「貸し付ける」。収益の原資は、事業の売上ではなく、借り手からの「利息」である。
金商法の登録があれば、投資家からお金を集めることはできます。しかし、集めたお金を第三者に「貸し付ける」行為は、原則として貸金業登録がなければ行えません(グループ会社間などの例外を除く)。
「二種業」と「貸金業」の二重規制という重圧
貸付型スキームを選択する場合、営業者は「二種業者」としての投資家保護義務に加え、「貸金業者」としての厳しい規制
(取立制限や貸付条件の掲示など)を同時に背負うことになります。
実務上、特に当局が注視するのは「グループ会社への貸付」における利益相反です。
「自社グループの資金調達のためにファンドを作る」という安易な動機で始めると、貸金業法上の審査能力や、金商法上の受託者責任(投資家の利益を最優先しているか)という両側面から、極めて厳しい追及を受けることになります。
営業行為か、資金移動か
「事業型」を名乗りながら、実態が単なる「資金の横流し(貸付)」になっているケースは、当局の立入検査で最も狙われやすいポイントの一つです。
実務上の警鐘
自社が「事業のオペレーション」を回すのか、それとも「債権の管理(回収)」を行うのか。この判断を誤り、必要なライセンスを欠いた状態でファンドを組成することは、コンプライアンス以前に「違法操業」の汚名を着せられるリスクを孕んでいるのです。
ライセンスの要否は、スキームの「名称」ではなく、資金が動く「実態」で決まります。その境界線を見極める眼力こそが、健全なファンド運営の第一歩です。
3. 「499人の壁」と合算ルールの盲点 — 意図せず「公募」になってしまう恐怖
二種業者が扱うファンド(2項有価証券)の多くは、ディスクロージャー(情報開示)の負担を避けるため、少人数の投資家を対象とする「私募」の形式をとります。ここで実務家が絶対に死守しなければならない数字が、いわゆる「499人」という壁です。
しかし、この数字を「契約者の数」だと勘違いしていたり、複数のファンドを並行して走らせる際の「合算ルール」を失念していたりすると、知らぬ間に重大な法令違反の泥沼に足を踏み入れることになります。
「契約数」ではなく「勧誘数」でカウントされる
まず、最も基本的で恐ろしい誤解は、分母の捉え方です。
間違い: 「実際に499人までなら契約しても大丈夫」
正解: 「契約に至らなくても、声をかけた(勧誘した)相手が通算500人以上になれば公募(有価証券届出書の提出義務)となる」
ウェブサイトで広く投資家を募集したり、SNSを通じて不特定多数にアプローチしたりする行為は、その時点で「500人以上への勧誘」とみなされる可能性が極めて高いのです。499人という数字は、あくまで「私募」として許容される上限であり、これを1人でも超えた瞬間に、求められる開示の質が根底から変わります。
逃げ道を塞ぐ「6ヶ月以内の合算ルール」
さらに実務で盲点となるのが、短期間に複数のファンドを組成する場合の「通算ルール」です。
「ファンドAは400人に声をかけた。ファンドBも別プロジェクトだから400人に声をかけた。どちらも499人以下だから大丈夫」……。この安易な判断が、会社を破滅させることがあります。
同一種類の発行体が6ヶ月以内に同種の有価証券(ファンド持分)を発行する場合、その勧誘対象者の数はすべて合算されます。つまり、上記のケースでは合計800人への勧誘となり、無届での「公募」という重大な違反が成立してしまうのです。
「無届公募」がもたらす地獄
もし意図せず「公募」の状態になってしまった場合、待っているのは地獄のような事務負担と法的リスクです。
有価証券届出書の提出義務: 膨大な財務情報や事業計画をEDINETを通じて公開しなければなりません。
継続開示義務: その後も有価証券報告書の提出が義務付けられ、監査法人による監査コストも発生します。
行政処分と社会的失墜: 届出なき公募は、金商法における極めて重い違反行為です。当局からの業務停止命令は免れず、投資家からの信頼は一瞬で瓦解します。
実務上の警鐘
「私募」という枠組みは、あくまで例外的な負担軽減措置に過ぎません。その枠を1ミリでも踏み出せば、上場企業並みの厳格な開示責任が容赦なく襲いかかります。「人数管理の甘さ」は、単なる事務ミスではなく、事業継続を断念させるほどの経営判断ミスなのです。
結び:ビジネスの成否は「入口」の法解釈で決まる
ここまで、第二種金融商品取引業の実務において特に誤解が生じやすい3つの論点を見てきました。
これらに共通して言えるのは、「事業が走り出してからでは、修正が極めて困難(あるいは不可能)である」という冷徹な事実です。一度開始してしまった無登録営業や、届出なき公募状態を「後から書類を書き換えて帳尻を合わせる」ことは、法治国家においては許されません。
「書類作成」の前に必要なのは「スキームの設計図」
ファンドビジネスを成功させる鍵は、免許の取得そのものではなく、その前段階にある「法解釈の精度」にあります。
自社の行為は7号なのか9号なのか。
その運用に貸金業登録は本当に不要か。
募集のプロセスに公募とみなされるリスクはないか。
これらの問いに対して、条文の裏付けを持った明確な回答を持たずに進めることは、霧の中で猛スピードの車を運転するようなものです。多くの事業者様が「何とかなるだろう」と楽観視するポイントこそが、実は当局が最も注視し、かつ最も厳しいペナルティを課す急所なのです。
戦略的なコンプライアンスを
コンプライアンスとは、単に「決まりを守る」という消極的な守りではありません。法規制を正確に理解し、それに基づいた強固なガバナンスを構築することは、投資家からの信頼を勝ち取り、競合他社と一線を画すための「強力な武器」となります。
行政書士の役割は、単に申請書を代行することに留まりません。事業者様が描くビジネスモデルが、金商法という厳しい枠組みの中でいかに安全に、かつ最大効率で稼働できるかを共に考え、リーガルリスクを事前に摘み取ることこそが真の価値です。
新しいビジネスに挑戦しようとする時、その「入口」の設計に少しでも不安を感じたなら、ぜひ専門家の門を叩いてください。その一歩が、貴社の事業を長きにわたって守り抜く、最良の投資になるはずです。
緒方法務事務所からのメッセージ
当事務所では、第二種金融商品取引業の登録から、実務に即した内部管理体制の構築、さらには個別スキームの適法性検討まで、専門的な知見に基づき伴走いたします。複雑な法規制を、成長の足かせではなく「信頼の証」へと変えるお手伝いをいたします。