その外注、大丈夫ですか?改正行政書士法で 「違法」となる業務領域を総整理
その外注、大丈夫ですか?改正行政書士法で 「違法」となる業務領域を総整理
その外注、大丈夫ですか?改正行政書士法で「違法」となる業務領域を総整理
2026年改正行政書士法に関する包括的影響評価報告書:制度変革と産業界への波及
序論:行政手続きのデジタル化と専門職能の再定義
2026年(令和8年)1月1日に施行される改正行政書士法は、昭和26年の制定以来、数次の改正を経てきた同法制の中でも、質的・構造的に最も重大な転換点の一つと位置づけられます。 本改正は、デジタル社会の進展に伴う行政手続きの複雑化・高度化に対応するため、行政書士の役割を単なる「書類作成の代行(下請け)」から「国民の権利利益の実現を担う専門職(法的仲介者)」へと昇華させることを意図しています。
同時に、無資格者による業務侵食に対し、法人処罰を含む厳罰化をもって対処する姿勢を鮮明にした点において、実務界のみならず関連産業界全体に多大なコンプライアンス上のインパクトを与えるものです。特に、違法な無資格業者に業務を依頼する個人や法人についても、行政書士法違反の「幇助(ほうじょ)罪」に問われるリスクが生じる点には、最大限の警戒が必要です。
第1章 「行政書士の使命(第1条)」の明文化と「職責(第1条の2)」の新設
1.1 法的パラダイムの転換:「目的」から「使命」へ 改正前の第1条(目的規定)は、「この法律は」を主語とし、行政取締法規としての側面が強いものでした。これに対し、改正法では見出しが「行政書士の使命」と改められ、主語も「行政書士は」へと変更されました。 これは、弁護士法と同様に、行政書士が国家資格者として有すべき倫理的基盤と社会的責務が、法律要件として格上げされたことを意味します。
主な変更点:
規定の性質: 行政取締法規としての目的宣言 → 専門職法規としての倫理・使命宣言
核心的価値: 業務の適正・行政の円滑な実施 → 国民の権利利益の実現・国民の利便
法的効果: 制度運用の指針 → 懲戒処分等の判断基準における「職責」の基礎
改正後の条文は、行政手続きにおける「円滑さ(行政効率)」と「国民の権利擁護(デュープロセス)」の調和を図る役割が行政書士に委ねられたことを示しており、国民と行政の間に立つ地位が確立されたと言えます。
1.2 「職責(第1条の2)」の新設とデジタル社会への適応 新設された第1条の2「職責」規定は、デジタル社会への対応を念頭に置いています。 現代の行政手続きは、e-Gov(電子政府の総合窓口)やjGrants(補助金申請システム)、在留申請オンラインシステムなどへ急速に移行しています。改正法は行政書士に対し、単なる法令知識だけでなく、これらのシステムを安全かつ適正に操作・管理する能力(ITリテラシー、サイバーセキュリティ対策)を法的な「職責」として求めています。
予想される法的帰結:
能力担保義務: デジタル申請に対応できない、あるいはID・パスワード管理に不備がある場合、職責を果たしていないとみなされ、業務過誤に対する損害賠償責任の厳格化につながる可能性があります。
電子署名・ID管理: 依頼者のID管理等において、高度な善管注意義務が課されます。
この点は、「教養としての行政法入門」等の著者である服部真和氏も指摘するように、アナログ時代の業務慣行からの脱却を促す強力なドライバーとなります。
第2章 特定行政書士の代理権限の拡大とワンストップサービス化
2.1 従来の限界と「泣き寝入り」構造の解消 従来の特定行政書士の代理権は「当該行政書士が作成した書類に係る処分」に限定されていたため、本人が申請して不許可になった案件や、他の行政書士が関与した案件の不服申立てを行えないというボトルネックがありました。これにより、弁護士費用等の問題から国民が「泣き寝入り」する構造が生じていました。
2.2 代理権限の拡大:他者作成案件への関与 2026年改正により、特定行政書士は以下の案件に対しても不服申立ての代理が可能となります。
リカバリー業務の解禁: 本人申請(行政書士が関与していない申請)で不許可となった案件の救済。
セカンドオピニオンからの受任: 他の行政書士が担当した案件の争訟手続きの受任。
ワンストップサービスの完成: 申請から不服申立てまで一貫した、あるいは途中(第2フェーズ)からの法的サポート体制の強化。
この拡大は、「司法の壁」の手前にある行政救済制度を活性化させる一方で、行政書士に対し、他者が作成した書類の瑕疵を見抜き、行政庁の裁量権逸脱等を論証する高度な専門性(行政法理論・要件事実論)を要求するものでもあります。
第3章 業務制限の趣旨明確化と無資格業務の根絶
3.1 報酬定義の厳格化と「いかなる名目」の禁止 改正法第19条(業務の制限)の趣旨が明確化され、行政書士資格のない者が、「いかなる名目によるかを問わず」報酬を得て官公署提出書類を作成・申請代行することが厳格に禁止されました。 これまで「グレーゾーン」として黙認されがちだったコンサルティング会社やWebサービス事業者による行為に対し、明確な「退場勧告」が出された形となります。
禁止される行為の基準:
名目の無効化: 「コンサル料」「会費」「サポート料」「システム利用料」「成功報酬」といった名目であっても、実質的に書類作成や申請支援を行っていれば違法とみなされます。
行為の実質の重視: 名目や肩書きではなく、サービス設計や契約内容が「実質的に行政書士業務を含む」かどうかが判断基準となります。
3.2 テック・ウォッシング(技術を隠れ蓑にした無資格業務)への牽制 AIによる書類自動生成サービスやクラウドソーシングでの申請代行についても、原則として厳格な規制が適用されます。「監修者として行政書士が関与しているか」「最終責任を誰が負うか」が問われ、テクノロジーを隠れ蓑にした無資格業務は許容されません。
3.3 【重要警告】依頼者側の法的責任(幇助罪) 重要な視点として、違法な無資格業者(コンサル会社等)に業務を依頼する行為自体が、刑法上の「幇助(ほうじょ)罪」を構成する可能性があります。 無資格者が「業として」行う犯罪行為に対し、それを知りながら報酬を支払い利用する依頼者(個人・法人)は、正犯の実行を容易にしたとして厳しく法的責任を問われ得ます。
第4章 両罰規定の導入:法人に対する懲罰的ガバナンス
4.1 第23条の3(両罰規定)の仕組み 無資格業務に対する最大の抑止力として、違反行為者だけでなく、その者が所属する法人も処罰する「両罰規定」が導入されます。
実行行為者への処罰: 1年以下の懲役または100万円以下の罰金。
法人への処罰(両罰): 実行行為者が所属する法人に対しても、100万円以下の罰金刑。
これにより、経営陣が「現場が勝手にやった」と主張することは通用しなくなり、法人は従業員の管理監督義務を負います。
4.2 法人処罰がもたらす致命的な副作用 「100万円の罰金」という金額以上に、法人に前科が付くことによる社会的・行政的制裁が企業存続に関わるリスクとなります。
公共入札: 参加資格停止(指名停止)。建設業や物品納入業者には死活問題。
許認可: 建設業法、宅建業法、労働者派遣法等における「誠実性」要件への疑義や、欠格事由への該当懸念。
レピュテーション: 上場企業や金融機関取引におけるコンプライアンス違反としての信用毀損、融資引き揚げリスク。
第5章 違法の疑いが強まる具体的な事業分野と実務
以下のビジネス・実務は、改正後に違法行為(およびその幇助)と判断されるリスクが極めて高い分野です。
1. 補助金・助成金申請サポート(コンサルティング)
リスク行為: コンサルタントが有償で実質的に申請書類(事業計画書等)を作成・入力支援・チェックする行為。
NGモデル: 「採択されたら補助金額の10%」という成功報酬モデルで、申請書の完成まで丸抱えすること。
対策: コンサルタントは事業計画策定(川上)に徹し、申請書類の作成・提出(川下)は行政書士が行う協業体制への移行が必要。
2. 入国管理・ビザ申請代行(登録支援機関・監理団体・人材会社)
現状: 支援業務の一環として、無資格スタッフが在留資格認定・変更書類を作成代行し、支援委託費等に含めて請求する商慣習。
リスク: 改正後は明確に違法(レッドカード)。職員の逮捕に加え、法人への両罰、さらには入管法上の欠格事由により登録支援機関としての登録抹消リスクがある。
対策: ビザ申請業務を切り離し、行政書士へ外注するフローの確立が不可避。
3. 許認可申請関連サポート
リスク行為: 航空分野、医療分野、食品分野、肥料・農薬・品種、宇宙分野、放射線・放射能分野等挙げればきりがありませんが、手続き書類を有償で作成・提出支援する行為。
例: 航空分野のコンサルティング会社が顧客の手続き書類の作成のアドバイスをし手数料を取る行為(両罰規定により法人も処罰対象)。
4. 法令系コンプライアンス・事務支援
グループ会社間: 親会社の総務部等が子会社の許可更新を代行し、管理費等を請求する場合(業としての無資格業務とみなされる恐れ)。
定額制サービス: ビジネス講座やバックオフィス支援の月額顧問料の中で、書類作成をサービスとして行う行為。
5. 書類テンプレートの販売・代行的支援
リスク行為: 有料テンプレートの提供に加え、具体的な記載例のフォローや作成支援をセットで販売するサービス。
6. 他士業による範囲外業務
リスク行為: 社労士、中小企業診断士、税理士等が、それぞれの法律に定められた範囲を超えて、有償で行政提出書類の作成・提出を支援する行為。
結論:2026年に向けたコンプライアンス戦略
2026年改正行政書士法は、単なる士業法の改正にとどまらず、日本社会における「行政手続きの適正化」と「専門知の尊重」を強制する強力なガバナンス改革です。
行政書士にとって: 使命と職責の明文化、権限拡大は職域の拡大を意味しますが、同時にデジタルスキルと法解釈能力の研鑽が生存条件となり、能力不足の資格者は淘汰されます。
企業・依頼者にとって: 無資格業者による安価な代行サービスへの依存は、自社が「行政書士法違反幇助」という犯罪に加担するリスクを背負うことを意味します。両罰規定による法人処罰や社会的信用の失墜は、コンプライアンス軽視の代償としてあまりに甚大です。
関係するすべての事業者は、施行までの猶予期間中に業務フローの総点検(法務監査)を断行し、無資格業者との契約解除、あるいは行政書士との適正な提携体制(業務のセグリゲーション)への移行を急務として進めるべきです。