適格機関投資家等特例業務(プロ向けファンド)の維持管理
適格機関投資家等特例業務(プロ向けファンド)の維持管理
「届出を出して終わり」ではありません。適格機関投資家等特例業務(プロ向けファンド)の維持管理と3つの落とし穴|事業報告・公衆縦覧を忘れると違法?
不動産ファンドやベンチャーキャピタル(VC)を立ち上げる際、本来であればハードルの高い「第二種金融商品取引業」の登録が必要です。
しかし、プロの投資家を巻き込むことでこの登録を免除され、比較的スピーディーにファンド募集が可能になる「適格機関投資家等特例業務(少人数プロ向け特例)」という制度があります。
実務上、多くの小規模ファンドがこの「特例」を利用していますが、ここに大きな落とし穴があります。
「届出さえ出してしまえば、あとは自由に運用できる」
そう勘違いしていませんか?
実は、2016年の金融商品取引法改正以降、この特例業務に対する規制は劇的に強化されました。
入口(届出)は広くても、中に入れば「毎年の事業報告書の提出」や「説明書類の公衆縦覧(誰でも見られる状態での開示)」といった、登録業者並みの厳しいコンプライアンス義務が課されています。
これらを怠り、放置し続けるとどうなるか。
金融庁(証券取引等監視委員会)による検査で摘発され、「法令違反事業者」としてウェブサイトで社名と代表者名が公表されるリスクがあります。一度公表されれば、銀行取引や今後の資金調達に致命的なダメージを負うことは避けられません。
本記事では、金融法務を専門とする行政書士であり、元CFOとしてファンドの管理実務も熟知する筆者が、多くの事業者が陥りがちな「届出後の維持管理」の落とし穴と、法令違反にならないための正しい運用ルールについて解説します。
「自分たちは大丈夫だろうか?」
そう不安に思った今こそが、管理体制を見直すタイミングです。
そもそも「適格機関投資家等特例業務」とは?(おさらい)
ファンド(組合型ファンド)を組成し、投資家からお金を集める行為は、原則として「第二種金融商品取引業」の登録が必要です。
しかし、この登録には「最低資本金1,000万円」「コンプライアンス部門の独立」「人的構成の確保」など、スタートアップや中小規模の不動産事業者には極めて高いハードルが課されています。
そこで、金商法第63条で定められている例外措置が、通称「適格機関投資家等特例業務(少人数プロ向け特例)」です。
1. 「1人のプロ」と「49人のアマ」
この制度の核心は、出資者の組み合わせにあります。
以下の条件を満たす場合、「登録」ではなく、比較的簡易な「届出(事後報告ではないが、形式審査のみの書類提出)」だけでファンドの勧誘・運用が可能になります。
適格機関投資家(プロ)が「1名以上」いること
適格機関投資家以外の投資家(一般・アマ)が「49名以下」であること
2. なぜ規制が緩められるのか?(制度の趣旨)
国がこの特例を認めている理由は、「プロの監視機能」に期待しているからです。
「金融のプロである適格機関投資家(証券会社やVCなど)が参加しているなら、ファンドの運営状況を厳しくチェックしてくれるだろう。だから、相乗りする一般投資家も守られるはずだ」
という性善説(ロジック)に基づいています。
逆に言えば、「プロ投資家がいないファンド」や「一般投資家が50名以上のファンド」は、この特例を使えず、原則通り「第二種金融商品取引業」の登録が必要となります。
3. 「私募(自己募集)」と「運用」のセット
この特例業務の届出を行うことで、以下の2つのライセンスが不要になります。
自己募集(私募): 自ら投資家を勧誘して出資を募る行為(本来は第二種業)。
自己運用: 集めたお金を株式や不動産信託受益権などに投資・運用する行為(本来は投資運用業)。
つまり、この届出1本で「資金調達」から「投資実行」までを自社完結できるため、非常に使い勝手の良い制度として、多くのSPC(特別目的会社)やベンチャーファンドで採用されています。
【入口の落とし穴】「適格機関投資家(プロ)」をどう確保するか?
特例業務の要件である「適格機関投資家(プロ)1名以上」。
この条件を聞いて、「お金持ちの知り合いがいるから大丈夫」と安易に考える方が多いですが、ここに大きな誤解があります。
単なる富裕層(資産家)は、法律上の「適格機関投資家」ではありません。
彼らはあくまで「アマチュア投資家(一般投資家)」の枠(49名まで)にカウントされる存在であり、制度の要件である「プロ枠」を埋めることはできません。
では、実績のない新規ファンドが、銀行や証券会社といった「本物のプロ」から出資を受けることができるでしょうか? 現実的には非常に困難です。
ここで多くのプロジェクトが頓挫しかけますが、実務上はいくつかの解決策(適法なスキーム)が存在します。
1. そもそも「適格機関投資家」とは誰か?
法律で定義された「適格機関投資家」は、主に以下の属性です。
金融機関: 証券会社、銀行、保険会社、信託銀行など。
投資ファンド: 投資事業有限責任組合(LPS)。
一定の法人: 上場企業、資本金5億円以上の法人など。
これらが出資者に1社でも入れば条件クリアですが、ハードルが高いのが現実です。
2. 実務の切り札:「有価証券残高10億円以上の法人」の活用
そこで、中小規模のファンド組成で最もよく使われるのが、「一般事業会社を適格機関投資家にする」という手法です。
実は、上場企業や金融機関でなくても、以下の条件を満たせば「適格機関投資家」として認められます。
有価証券の残高が10億円以上あること
(株式、国債、投資信託、他のファンド持分などの合計)
金融庁長官への「届出」を行うこと
つまり、親会社やスポンサー企業、あるいは大口の出資予定法人が、既に多額の有価証券(例えば10億円分の国債や上場株)を保有している場合、その法人が「適格機関投資家としての届出」を済ませることで、晴れて「プロ投資家」としてファンドに参加できるのです。
※この届出自体も当事務所でサポート可能です。
3. 「LPS(投資事業有限責任組合)」の活用
もう一つの有効な手段は、ベンチャーキャピタルなどが運営する「LPS」からの出資を受けることです。
LPSは、その性質上、定義として「適格機関投資家」に含まれます。
もし、貴社の事業に賛同してくれるVCや、既存のLPSが存在する場合、そこから少額でも出資を受けることで「プロ1名」の要件を満たすことができます。
【注意】「名義貸し」は通用しない
「プロ投資家が見つからないから、名前だけ貸してくれる会社はないか?」
たまにこのような相談を受けますが、これは危険です。
特例業務の趣旨は「プロによるモニタリング」です。形式的にプロを入れても、実質的な投資判断や監視が行われていない(いわゆる名義貸しや、極端に少額な出資)と判断された場合、脱法行為として特例の適用が否認されるリスクがあります。あくまで「実質的な出資者」の中にプロを確保する必要があります。
【運用の落とし穴】忘れると危ない「毎年の義務」
適格機関投資家等特例業務の届出が受理されると、金融庁(財務局)のウェブサイトにある「届出者一覧」に社名が掲載され、晴れてファンド運用が開始できます。
しかし、ここで安心してはいけません。
この特例業務には、通常の会社運営には存在しない、金商法独自の「毎年の義務」が課されています。これを知らずに放置し、数年後に当局から指摘を受けてパニックになるケースが後を絶ちません。
1. 「事業報告書」の提出(年1回・3ヶ月以内)
すべての届出者は、事業年度ごとに「事業報告書(様式第21号の3)」を作成し、管轄の財務局へ提出しなければなりません。
期限: 事業年度経過後、3ヶ月以内。
内容: 貸借対照表などの財務数値だけでなく、「投資家の内訳(プロ何人、アマ何人)」「運用財産の種類」「主な投資先トップ10」など、ファンド特有の情報を細かく記載する必要があります。
落とし穴: 税務申告(税理士)とは全く別ルートの手続きです。顧問税理士は金商法の報告書を作ってくれませんし、リマインドもしてくれません。自主的に管理する必要があります。
2. 「説明書類」の公衆縦覧(公表義務)
事業報告書の提出とセットで行わなければならないのが、「説明書類(様式第21号の4)」の公衆縦覧(こうしゅうじゅうらん)です。
これは、「私たちのファンドは健全に運営されています」という情報を、投資家だけでなく「誰でも見られる状態(公衆)」にさらしておく義務です。
公表方法:
本店・営業所への備え置き: 紙に出力して、来客がいつでも見られるようにする。
インターネットでの公表: 自社ウェブサイトがある場合は、サイト上での公開(またはダウンロード可能にすること)が義務付けられています。
期間: 1年間(次の書類ができるまで)。
落とし穴: 「うちは身内だけのファンドだから」と非公開にしておくと、明確な法令違反(開示義務違反)となります。
3. 「変更届」の提出(遅延厳禁)
届出事項に変更があった場合は、「遅滞なく」変更届を提出しなければなりません。
よくある変更事例:
本店を移転した。
代表者や役員が変わった。
ファンド(組合)の名称を変えた。
営業所の電話番号が変わった。
リスク:
何年も前の住所のまま放置していると、「実態がない」「連絡が取れない」とみなされ、行政処分の対象となる可能性が高まります。
【元CFOの警告】銀行は見ています
「これらをサボっても、すぐにはバレないだろう」
そう思うかもしれませんが、金融機関のコンプライアンス部門は、財務局の公表リストや提出状況を定期的にチェックしています。
もし、貴社が「事業報告書未提出」や「連絡不通」の状態にあると判断されれば、銀行口座の凍結や、新規融資の拒絶といった実質的なペナルティを受けることになります。
事務作業の不備で、本業の資金繰りが止まることほど愚かなことはありません。
【2016年法改正】「アマチュア投資家」の属性制限に注意
適格機関投資家等特例業務は、2016年(平成28年)3月に大きな法改正が行われました。
それ以前は、「プロ1人+アマ49人」の人数さえ守れば、アマチュア枠に「誰を入れるか」は自由でした。極端な話、投資経験のない学生や主婦を49人集めても合法だったのです。
しかし、現在は違います。
消費者保護の観点から、一般投資家(アマチュア)としてファンドに入れられる人物には、厳しい「属性要件(資産や経験)」が課されています。
1. 個人投資家のハードルは高い
「一般投資家(49人枠)」に個人を入れる場合、原則として以下のいずれかに該当する必要があります。
富裕層・投資経験者:
金融資産(有価証券)が1億円以上あり、かつ
証券口座を開設して1年以上経過している人
運営者の関係者:
届出者(GP)の役員、使用人(従業員)。
届出者(GP)の役員の配偶者、または3親等以内の親族。
つまり、「資産1億円未満の、単なる友人・知人」からは、原則として出資を受けることができません。
「クラウドファンディング感覚でSNSで広く浅く集める」といった手法は、この特例業務では完全に違法となります。
※ただし、ベンチャー企業への投資(未公開株等)に特化したファンド(ベンチャーファンド特例)の場合、一定の条件下で基準が緩和されるケースもありますが、適用要件は複雑です。
2. 法人投資家は比較的緩やか
一方、一般投資家が「法人(会社)」である場合は、個人のような厳しい資産要件はありません。
原則: どのような法人でも「一般投資家(49人枠)」に入ることができます。
例外(禁止): 投資事業有限責任組合(LPS)は、一般投資家枠には入れません(※プロ枠の扱いになるため)。
そのため、実務上は個人資産家に対して「資産管理会社(法人)を作ってもらい、その法人名義で出資してもらう」というスキームがよく採られます。これならば、法的には「一般投資家(法人)」からの出資となるため、適法に49人枠に組み込むことが可能です。
3. 「確認義務」を怠るとアウト
届出者(ファンド運営者)には、出資者がこれらの属性要件を満たしているか確認する義務があります。
もし、金融庁の検査が入った際に、
「資産1億円以上と聞いていたが、証拠はない」
「実は名義だけで、実態は投資経験のない個人だった」
ということが発覚すれば、特例業務の要件を満たしていない(=無登録営業)とみなされ、刑事罰の対象となります。
契約締結時には、単に契約書にサインをもらうだけでなく、「属性確認書」や「保有資産の証明(残高証明書の写し等)」を取得し、厳重に保管しておく必要があります。
違反した場合のペナルティ(氏名公表と刑事罰)
適格機関投資家等特例業務は、登録免許税もかからず、比較的自由に運営できる「特権」です。しかし、その特権は「ルールを守る」という前提条件の上に成り立っています。
もし、事業報告書の提出を怠ったり、投資家要件(プロ1名+アマ49名)を逸脱したりした場合、金融庁(証券取引等監視委員会)は容赦ない処分を下します。
1. 行政処分と「氏名公表」の恐怖
金商法違反が発覚した場合、業務改善命令や業務停止命令といった行政処分が下されます。
しかし、それ以上に恐ろしいのが、「法令違反事業者としての公表」です。
金融庁および証券取引等監視委員会のウェブサイトには、「適格機関投資家等特例業務を行う旨の届出を行っているが、法令違反の疑いがある者」のリストが実名で掲載されています。
掲載内容: 商号(会社名)、代表者の氏名、所在地、違反の概要。
影響(デジタルタトゥー):
一度ここに掲載されると、Google検索で社名や代表者名を検索した際に、半永久的に「法令違反」「金融庁勧告」の文字が表示され続けます。
結果として、銀行口座の強制解約、取引先からの契約解除、将来の資金調達の道が完全に閉ざされることになります。
2. 刑事罰:5年以下の懲役・5億円以下の罰金
単なる手続きミスを超え、「虚偽の届出」や「無登録営業(特例の要件を満たしていないのに勧誘した)」と悪質性が認定された場合、刑事罰の対象となります。
個人への罰則: 5年以下の懲役 もしくは 500万円以下の罰金(またはその併科)。
法人への罰則: 5億円以下の罰金。
特に法人に対する「5億円」という罰金は、会社を倒産させるに十分な金額です。「知らなかった」では済まされない重い責任が、ファンド運営者には課されているのです。
3. 「放置」が一番のリスク
実際に行政処分を受けた事例を見ると、巨額詐欺のようなケースだけでなく、
「事業報告書を何年も出さずに無視し続けた」
「事務所を移転したのに変更届を出さず、当局からの郵便が届かなかった」
といった、事務管理の不備(放置)がきっかけで実態調査に入られ、処分に至るケースが非常に多いです。
「うちは小規模だから見つからない」という考えは捨ててください。当局は、届出が出ている全ての事業者の提出状況をシステムで管理しています。
当事務所の支援内容(届出代行から年間保守まで)
適格機関投資家等特例業務は、届出が受理されてからが本当のスタートです。
当事務所では、届出書類の作成はもちろん、プロ投資家の確保に向けたスキーム構築から、毎年の事業報告まで、ファンド運営にかかる法務・事務負担をトータルでサポートします。
1. プロ投資家(適格機関投資家)の確保支援
「プロが見つからない」という理由でファンド組成を諦める必要はありません。実務上可能なスキームを提案します。
「みなし指定」の届出: 出資予定の法人(親会社やスポンサー等)が有価証券を10億円以上保有している場合、その法人を「適格機関投資家」にするための届出(金商法上の特例)をサポートします。
LPS活用のアドバイス: 既存の投資事業有限責任組合(LPS)を活用したスキーム構築を助言します。
2. 特例業務届出の完全代行
管轄の財務局(関東財務局など)への届出を代行します。
投資家属性の厳格なチェック: 予定している一般投資家(49名枠)が、法的な属性要件(資産1億円以上、または密接関係者等)を満たしているか、契約前にスクリーニングします。
届出書の作成・提出: 複雑な「様式第20号」の作成および提出を代行します。
3. 【推奨】年間コンプライアンス保守(顧問サービス)
多くのファンド運営者が最も苦労する「維持管理」を、当事務所が引き受けます。顧問契約を締結いただくことで、以下の業務を継続的にサポートし、「うっかり法令違反」を未然に防ぎます。
事業報告書の作成・提出管理: 毎年の決算後、期限(3ヶ月以内)までに確実に事業報告書を作成・提出します。
公衆縦覧書類の整備: 本店やウェブサイトで公表すべき「説明書類」の最新版を作成します。
変更届の漏れ防止: 役員変更や住所移転など、届出事項に変更が生じた際、即座に対応します。
4. 銀行口座開設・資金調達サポート(元CFOの強み)
ファンド(組合)名義の銀行口座開設は、年々審査が厳しくなっており、多くの事業者がここで躓きます。
銀行交渉の支援: 金融機関に対し、ファンドの適法性(金商法の特例に基づいていること)や、マネー・ロンダリング対策(犯収法対応)が万全であることを説明し、口座開設を支援します。
資金管理体制の構築: 投資家から集めた資金の分別管理など、CFO視点で透明性の高い管理体制を構築します。
御社のファンド、実は「違法状態」になっていませんか?
届出後の「事業報告」と「公衆縦覧」、正しく行えていますか?
適格機関投資家等特例業務は、非常に使い勝手の良い制度ですが、その分、金融庁(財務局)による監視の目は年々厳しくなっています。
「数年前に届出を出したが、事業報告書を一度も出していない」
「事務所を移転したのに、変更届を忘れていた」
「投資家の属性確認(資産1億円以上など)が曖昧なまま出資を受けてしまった」
これらは全て、行政処分や氏名公表(デジタルタトゥー)の対象となり得る重大な不備です。
一度「法令違反事業者」として公表されれば、銀行取引は停止し、将来のIPOやバイアウトの可能性も消滅します。
元CFO・金融専門行政書士である当事務所が、これからファンドを組成する方はもちろん、「既に運用中だが、コンプライアンスに不安がある」という方の駆け込み寺として、適正化をサポートします。
このようなお悩みは、今すぐご相談ください
これからファンドを作りたいが、「プロ投資家(適格機関投資家)」のアテがない
届出を出したきり放置しており、何をすべきか整理してほしい
財務局から「報告書の督促」や「問い合わせ」が来て困っている
投資家(一般・アマ)を入れたいけれど、適格性の判定ができない