第二種金融商品取引業登録における人的構成要件
第二種金融商品取引業登録における人的構成要件
第二種金融商品取引業登録における人的構成要件の包括的解説
規制の深層と実務的対応の要諦
第二種金融商品取引業(以下、「第二種業」という)の登録申請において、近年、審査当局の視点は劇的な変化を遂げています。本レポートでは、登録の成否を分ける最大の難関である「人的構成要件」について、法令、監督指針、最新の実務運用を網羅的に解説します。
第1章 序論:金融商品取引法が求める「人的資本」の本質
1.1 登録審査におけるパラダイムシフト
かつては最低資本金や社内規定の形式的な整備が審査の中心でしたが、現在は「人的構成」、すなわち「誰が業務を遂行し、誰が管理するのか」という実質的な判断へと完全に移行しています。
背景: 過去の金融不祥事の教訓から、法令遵守意識(コンプライアンス・マインド)や専門知識の欠如が投資家被害に直結するという反省があります。
審査の視点: 財務局は「組織図」と「履歴書」を鋭く分析し、実務能力、リスク管理能力、そして経営陣の「本気度」を見極めようとしています。
1.2 第二種金融商品取引業の特殊性と人的リスク
第二種業が扱う「みなし有価証券」(信託受益権やファンド持分等)は、上場株式に比べ価格の透明性や換金性が低いという特性があります。
高い依存度: 投資家は、商品を組成・販売する業者自身の信用力と説明能力に大きく依存します。
求められる能力: 担当者および内部管理部門には、第一種業者以上に高度な説明義務(アカウンタビリティ)と、商品構造への深い理解が求められます 。
監督指針の姿勢: 単に人数を揃えるだけでなく、厳格なチェックを行う旨が明記されています。
第2章 法的枠組みと欠格事由の構造分析
2.1 金融商品取引法第29条の4の解読
登録審査は「適格性の確認」であると同時に、「不適格者の排除」のプロセスでもあります。
2.1.1 形式的欠格事由の厳格運用
第二種金融商品取引業の登録審査においては、いわゆる「レッドライン」に該当する場合、情状酌量の余地は一切なく、登録は自動的に拒否されます。これらは形式的な確認にとどまらず、実質的・網羅的に厳しく審査される点に注意が必要です。
まず、登録取消歴がある場合です。過去に金融商品取引業の登録を取り消され、その処分から5年を経過していない者は欠格事由に該当します。この審査では、申請者本人だけでなく、現在の役員が過去に所属していた法人における登録取消や行政処分の履歴についても確認されるため、人的関係を含めた広範なチェックが行われます。
次に、刑事罰の履歴です。禁錮以上の刑に処せられ、刑の執行が終了または免除された日から5年を経過していない場合、登録は認められません。対象となる犯罪は金融犯罪に限定されず、一般刑法犯も含まれるため、業務との直接的な関連性がない場合でも欠格事由となる点が重要です。
さらに、法令違反も重大な審査項目です。金融商品取引法や暴力団対策法などの法令に違反し、罰金刑を受けてから5年を経過していない場合は登録不可となります。特に、投資家保護や反社会的勢力排除に関わる重大な法令違反については、極めて厳格に判断されます。
また、外国法人特有の要件として、国内における代表者を適切に定めていない場合なども欠格事由に該当します。これは外国法人が日本で第二種金融商品取引業の登録を目指す際の大きなハードルとなる要素です。
なお、これらの欠格事由の有無は、単なる誓約書の提出によって確認されるものではありません。身分証明書の提出や警察庁への照会などを通じて厳密に調査され、虚偽や見落としがあった場合には、登録拒否だけでなく将来的な不利益につながる可能性もあります。
2.1.2 実質的欠格事由:審査の核心
最も不許可の原因となりやすいのが、「金融商品取引業を適確に遂行するに足りる人的構成を有しないと認められる者」(金商法第29条の4第1項第1号イ~ハ)という規定です。
実務上の解釈: 「知識や経験が不足している状態」を指します。前科がなくても「能力不足」であれば法的に登録を拒否できるため、この能力をいかに証明するかが最大の課題です。
2.2 外国法人および海外居住役員に関する要件
国内代表者の義務: 外国法人は国内における代表者を定めなければ登録を受けられません。
権限の所在: 国内代表者は国内の「全て」の営業所の業務を担当する権限を持つ必要があり、経営判断を行える人材が国内に常駐していることが必須です。
第3章 経営陣(役員)に求められる資質とガバナンス体制
3.1 経営者の適格性とコンプライアンス・ファースト
代表取締役には、売上以上に「法令遵守を経営の最優先事項とする姿勢」が求められます。
ヒアリング: 代表者自身がビジネスモデルのリスクを認識し、どう管理するかの方針を語る必要があります。
リーダーシップ: 営業部門に対する牽制機能を機能させ、コンプライアンス部門を尊重する姿勢が不可欠です。
3.2 常勤役員の必要性と役割分担
原則として役員には「常勤性」が求められ、以下の2つの機能については機能の分離が明確である必要があります。
営業・運用部門担当役員: ビジネスの推進に責任を持つ。
内部管理(コンプライアンス)担当役員: ビジネスのブレーキ役に責任を持つ 。
※同一人物への集中は利益相反となるため避けるべきです。小規模組織でも組織図上での「機能の分離」が必須となります。
3.3 役員に求められる知識レベル
取締役会全体として以下の知識領域をカバーしている必要があります。
金融商品取引法: 業法規制の全体像。
商品知識: 投資対象(不動産、再エネ等)に関する専門知識。
財務会計: 分別管理や自己資本規制比率に関する知識。
第4章 内部管理統括責任者(コンプライアンス担当者)の要件詳細
4.1 審査の最重要関門
「内部管理統括責任者」は事実上の合否を決定づけるキーマンです。当局は極めて高い基準を設けています。
4.2 「知識」と「実務経験」の具体的基準
4.2.1 知識要件の証明
証券外務員資格(一種・二種): 必須に近い最低限の証明です。
内部管理責任者資格: 体系的な内部管理知識の証明として有効です。
4.2.2 実務経験要件(最大の難関)
目安として「実務経験3年以上」が語られますが、その中身が重要視されます。
有効とされる経験: 金商業者のコンプライアンス部門勤務、当局や自主規制機関での検査・考査経験。
不十分とされる経験: 銀行窓口、一般企業の総務・法務、金融機関での営業経験のみ。
理由: 営業(アクセル)と管理(ブレーキ)では思考回路が異なるため、「ダメなものはダメ」と言える職業倫理と法令解釈の経験値が必須とされます。
4.3 独立性と権限の確保
人事考課の独立: 営業成績によって給与や評価が左右されない体系。
指揮命令系統の独立: 営業部長の部下が兼務することは不可。代表取締役や取締役会へ直接報告できるルートが必要です。
第5章 業務遂行に必要な各機能と人的配置(体制整備)
5.1 監督指針が求める具体的機能(a~i)
監督指針に基づき、以下の業務フローを遂行できる要員の確保が求められます。
a. 帳簿書類・報告書の作成: 法定書面の作成や金融独特の会計知識。
b. ディスクロージャー: 投資家への正確・タイムリーな情報開示。
c. リスク管理: 市場・信用・オペリスク管理、および「分別管理」の徹底。
d. 電算システム管理: ITシステムの安定稼働とセキュリティ対策。
e. 売買管理、顧客管理: 適合性原則の遵守確認やモニタリング。
f. 広告審査: 誇大広告等の事前審査。コンプライアンス部門の承認フロー 。
g. 顧客情報管理: 個人情報および機微情報の厳重管理。
h. 苦情・トラブル処理: 窓口設置とPDCAサイクル、金融ADRへの対応 。
i. 内部監査: 独立した立場からの事後チェック。
5.2 兼務の許容範囲と限界
利益相反が生じない範囲での兼務は認められます。
許容例: 総務担当が「帳簿作成」と「顧客情報管理」を兼務するなど。
不可の例: 営業担当が「広告審査」や「入金確認(分別管理)」を行うことは牽制が働かないため不可です。
第6章 業態別・取扱商品別の特有要件
不動産信託受益権:
宅地建物取引士: 重要事項説明能力のため、ほぼ必須です。
実務経験: 不動産取引の経験が概ね2~3年以上あることが望ましいとされます。
ファンド(集団投資スキーム):
匿名組合等の法的知識に加え、電子募集(クラウドファンディング等)を行う場合はITリテラシーや貸金業法への理解も求められます。
高速取引行為(HFT):
極めて高度な基準が適用され、ITエンジニアやクオンツ等の専門人材が不可欠です。
第7章 組織と外注:内部監査とアウトソーシングの線引き
7.1 内部監査部門の独立性
被監査部門から独立している必要があり、小規模業者では代表者や非常勤監査役が担当することも可能ですが、実務能力が問われます。
7.2 外部委託(アウトソーシング)の活用と限界
委託可能な業務: システム保守、帳簿入力代行、法務アドバイザリー、内部監査の一部。
委託不可能な業務(コア業務): コンプライアンスの最終判断、適合性判定、取引の承認。
これらを丸投げすることは「名義貸し」に抵触する恐れがあります。
第8章 第二種金融商品取引業協会への加入と自主規制
加入の意義: 法的義務ではありませんが、協会の「モデル規則」を利用できるため、体制整備のハードルを下げる実務上の必須事項です。
協会規則の要件: 内部管理統括責任者の設置義務や研修受講義務などが細かく規定されています。
知識の補完: 経験が若干不足していても、協会の研修制度を活用する計画を提示することでアピールできる場合があります
第9章 登録審査の現場:ヒアリングと実地調査
事前相談: 財務局からの膨大な質問書(Q&A)に対し、「誰が、どのような手順で行うのか」「担当者の能力の根拠は何か」を具体的に回答する必要があります。
面接審査(ヒアリング): 主要役員とコンプライアンス担当者に対し、社内規程に基づいたシミュレーション形式の質問が行われます。
重要: 条文の暗記ではなく、自社のフローにおける適用場面を「自分の言葉」で説明できるかが試されます。
第10章 結論:持続可能な人的体制の構築に向けて
10.1 登録はゴールではなくスタート
登録後の離職等で要件を欠けば、業務停止や登録取消しの対象となります。特にコンプライアンス担当者の離職に備え、副担当者の設置などのバックアップ体制(BCP)が重要です。
10.2 採用市場の現実と戦略
経験豊富な人材は希少です。
早期活動: 計画の初期段階から確保に動く必要があります。
シニア層の活用: 証券・銀行出身の定年退職者を常勤役職員として迎えることは、審査通過の近道となるケースが多いです。
10.3 行政書士の役割と限界
行政書士は申請書類作成や当局との折衝をサポートしますが、「人」そのものを用意したり、経営者に代わって審査官の前で答弁したりすることはできません。
最終的に問われるのは、事業者自身の「金融商品取引業を営む覚悟」と「人への投資」です。
※本チェックリストは、金融商品取引業(特に第二種金融商品取引業)を想定した自社の人的体制が要件を満たしているかを診断するための整理資料である。
まず、代表取締役については、金融商品取引法上の欠格事由に該当しないことが前提となる。また、常勤であることが求められ、法令遵守を行う旨の宣誓が必要である。理想的には、単なる形式的な遵守ではなく、コンプライアンスを経営の中核に据えた経営哲学を自らの言葉で語れる人物が望ましい。
次に、コンプライアンス担当役員は、営業部門から独立した立場にあり、営業活動に対する牽制機能を果たすことが必須である。理想的な体制としては、営業担当役員とは別の常勤役員がコンプライアンスを所管し、組織内で実効性のあるチェック体制を構築できることが望ましい。
内部管理統括責任者は、人的要件の中でも最も重要なポジションである。原則として3年以上の実務経験や所定の資格等が求められ、内部管理体制全体の中核を担う。理想的な人物像としては、証券会社など金融機関の管理部門での実務経験を有し、強い倫理観とリスク感覚を持つ人物が適している。
営業担当者については、取り扱う金融商品の十分な知識を有し、適合性原則を正しく理解していること、ならびに必要な資格を保有していることが求められる。理想的には、商品特性を踏まえた上で、顧客の属性やニーズを重視した「顧客本位の販売」を実践できる人材が望ましい。
内部監査担当者は、監査対象となる部門から独立していることが必須条件である。体制としては、社長直轄とする、または監査役が担う形が一般的であり、規模や体制に応じて外部の専門家(公認会計士・弁護士等)の支援を受けることも認められている。
最後に、不動産業務従事者については、宅地建物取引士の資格を有し、2~3年以上の実務経験が求められる。特に信託受益権を扱う場合には、不動産実務の経験に加え、物件調査やデューデリジェンスを適切に行える調査能力を備えた人材であることが理想的である。
※参考文献・法的根拠一覧
金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」
金融商品取引法 第29条の4(登録の拒否)
一般社団法人第二種金融商品取引業協会 内部管理規則・自主規制規則
各種求人媒体分析
(文責:行政書士 緒方 隆朗 / 金融許認可専門チーム)※2026年1月時点の法令・指針に基づき作成されています。